タパヌリ熱

"What do you know, pray, of Tapanuli fever?" said Sherlock Holmes. 音楽や本など、嘘や発見を書くブログ。旧ブログ http://ameblo.jp/baritsu/

チャールズ・ミンガスの書く歌詞

マイルス・デイヴィス Miles Davisの初期作"Blue Haze"を買ったら、ミンガス Charles Mingus がピアノを弾いてる"Smooch"という曲があった。マイルスとの共作になっているけど、これはミンガスの"Weird Nightmare"という曲と異名同曲。ミンガスのピアノが妖しくて、いい。

原曲は、"Pre-Bird(1960)"というアルバムに入ってる。このアルバムは1964年に"Mingus Revisited"としてリイシュー、私が持ってるCDは"Take the A Train"というタイトル、ややこしい。Lorraine Cussonというボーカリストがミンガスの書いた歌詞を歌っている。

このアルバムには2曲の歌曲が収められている。

一つは映画で有名な"Weird Nightmare 奇妙な悪夢"

こちらは、フロイディアンな失恋ソング、とでもいうべき詩で、めちゃくちゃ陰鬱な歌。

 

Charles Mingus “weird nightmare“


weird nightmare,
you haunt my every dream
weird nightmare,
tell me what’s your scheme
Can it be that you are a part
of a lonely broken heart?
奇妙な悪夢、お前は夜毎つきまとう
奇妙な悪夢、お前のからくりを教えておくれ
お前は、孤独な夢破れた心の一部なの?

weird nightmare,
why must you torment me?
weird nightmare,
pain and misery
in a heart thats loved and lost
take away the grief you’ve caused

奇妙な悪夢、なぜ私を苦しめるの

奇妙な悪夢、

愛を失ってさまよう心の苦痛、みじめさ

お前がもたらした嘆きを取り去ってくれ


Can’t sleep at night
twist, turn in fright
with the fear that I’ll live it again in my dreams
夜も眠れず、煩悶し、恐怖に振り返る

夢の中で恐怖を再び生きる

 

以下、まだ続きは長いのですが、全く展開がなく、同じことを言ってるだけなので、これくらいに。ドルフィーたちによる夢魔が騒いでるような演奏が、怖いです。

 

もう一つは"エクリプス "Eclipse"で、こちらの方が遙かに詩として優れてる。

Charles Mingus "Eclipse"

eclipse
when the moon meets the sun
eclipse
these bodies become as one
people all around
eyes look up and frown
for it's a sight they seldom see

月が太陽と出会う

二つの体が一つになる
辺りの人々は
見上げては、眉をひそめる
彼らの見慣れない光景に

some look through smoked glasses
hiding their eyes
others think it's tragic
staring as dark meets light

自分の眼を隠して、
スモーク・グラス越しに見るものもいる
悲劇だと思うものもいる
光と出会った闇を見つめて

but the sun doesnt care
and the moon knows nothing
for destiny's making her choice
だが太陽は気にかけず
そして月は何も知らない
彼女をして選ばせたのは、運命

eclipse  the moon has met the sun
eclipse two worlds that joined as one

月が太陽と出会った

一つになった二つの世界

 

これは性愛の歌なのですが、人々の「常識」に関わりなく動いていく宇宙的な事象、というイメージは、さまざまなことを想起させる。たとえば、光と出会った闇、とは、50年代アメリカにおける人種間の関係のことも念頭においたイメージでしょう。

 

エリック・ドルフィーが"Out there"でこの曲をカバーしています。


Eric Dolphy - Eclipse - YouTube

この演奏が現代音楽っぽく聞こえるのは、ぶっちゃけ、ロン・カーターのチェロの音程によるところが大きい。この日ロンは体調不良だった、とか読んだことがあるけど、こっちまで体調がおかしくなりそうな演奏で、すばらしい。

 

 

Blue Haze

Blue Haze

 

 

Take the 'a' Train

Take the 'a' Train

 

 

 

Out There (Reis)

Out There (Reis)