タパヌリ熱

"What do you know, pray, of Tapanuli fever?" said Sherlock Holmes. 音楽や本など、嘘や発見を書くブログ。旧ブログ http://ameblo.jp/baritsu/

スティックがきらいでチューブ入りの糊を好むわけを教えようか/高瀬一誌

スティックがきらいでチューブ入りの糊を好むわけを教えようか

高瀬一誌

 

今いちばん好きな短歌の一つ。

短歌定型の感覚でいうと、

すてぃっくが/きらいでチューブ/いりののりを/このむわけを/おしえようか

となる。

 

この歌の優れたところは、どこか。

 

昔ながらのチューブ糊に対して、スティック糊が出てきたのはいつごろのことだったか。手も汚れないし、糊が出過ぎてべたべたになることもないし、いいことずくめだった。しかし、こんなに便利になってしまって、いいのだろうか。何かが見落とされているのではないか。

 

などというところではなくて、「教えようか」である。

ふつう、ひとは、スティックがきらいでチューブ入りの糊を好むわけを、「教えようか」というまでもなく、既に、教えている。この「教えようか」という問いかけは、日常会話の中に生じた、よくわからない奇妙な間である。

日常的で、非常にくだらないことを歌っているのだが、「教えようか」の分だけ、ものすごくかすかに、日常言語からズレて宙づりになっているわけだ。

それと「教えようか」という問いかけのやさしさ。短歌の一人称性が、ものすごくかすかに、ズラされているのである。

 

それだけなのだが、大好きな歌である。