スティックがきらいでチューブ入りの糊を好むわけを教えようか
高瀬一誌
今いちばん好きな短歌の一つ。
短歌定型の感覚でいうと、
すてぃっくが/きらいでチューブ/いりののりを/このむわけを/おしえようか
となる。
この歌の優れたところは、どこか。
昔ながらのチューブ糊に対して、スティック糊が出てきたのはいつごろのことだったか。手も汚れないし、糊が出過ぎてべたべたになることもないし、いいことずくめだった。しかし、こんなに便利になってしまって、いいのだろうか。何かが見落とされているのではないか。
などというところではなくて、「教えようか」である。
ふつう、ひとは、スティックがきらいでチューブ入りの糊を好むわけを、「教えようか」というまでもなく、既に、教えている。この「教えようか」という問いかけは、日常会話の中に生じた、よくわからない奇妙な間である。
日常的で、非常にくだらないことを歌っているのだが、「教えようか」の分だけ、ものすごくかすかに、日常言語からズレて宙づりになっているわけだ。
それと「教えようか」という問いかけのやさしさ。短歌の一人称性が、ものすごくかすかに、ズラされているのである。
それだけなのだが、大好きな歌である。