タパヌリ熱

"What do you know, pray, of Tapanuli fever?" said Sherlock Holmes. 音楽や本など、嘘や発見を書くブログ。旧ブログ http://ameblo.jp/baritsu/

Third World Man(歌詞和訳)/Steely Dan

Third World Man / Steely Dan
 
Johnny's playroom
Is a bunker filled with sand
He's become a third world man
ジョニーの子供部屋は
砂で埋もれた塹壕
彼は「第三番目の世界の人」になってしまった
 
Smoky Sunday
He's been mobilized since dawn
Now he's crouching on the lawn
He's a third world man
霧に煙った日曜
夜明けからずっとうろつきまわった*
今は芝生にしゃがんでいる
彼は第三世界の男
 
Soon you'll throw down your disguise
We'll see behind those bright eyes
By and by
When the sidewalks are safe
For the little guy
やがて君は擬装を解き
徐々に
その明るい瞳の奥を見せるだろう
ちっぽけな男にとって
歩道が安全なときに
 
I saw the fireworks
I believed that I was dreaming
Till the neighbors came out screaming
He's a third world man
『俺は空に上がる花火を見ていた。
まるで夢のようだった』
近所の住民たちが叫びながらやってくるまでは
『見て! 彼は三番目の世界の人だわ!』
 
When he's crying out
I just sing that Ghana Rondo
E l'era del terzo mondo
He's a third world man
彼が叫んでいるとき
俺はガーナ風ロンド*を歌っていた
第三世界の時代が来る』*
彼は第三世界の男
 
*has been mobilized(駆り立てられていた、動員されていた)
 受動態。自発的な行動ではない。
 "bunker", "smokey", "disguise"などとともに、
戦争帰還兵のイメージもあるのだが、これはメタファーに他ならない。 
  子供時代が戦場→三番目の世界の住人になった
と最初のヴァースに明示されているから、
歌詞は文字通りの「第三世界の男」についてのものではなく、
また移民や帰還兵についての物語ではない。
 
*ガーナ風ロンド
謎。
デイヴ・ブルーベック・カルテット『トルコ風ブルーロンドBlue Rondo a la Turk』と
コンゴ風ルンバ(Rumba Congolaise)を混ぜた、架空のワールドミュージック
*E l'era del terzo mondo
 「そして第三世界の時代」、なぜイタリア語なのかは、わからじ。
 第三世界(the third world)とは冷戦を背景とする言葉で、
 東側/西側の「2つの世界」に対して、
 植民地から独立したアフリカ、ラテンアメリカなどの国々を第三極として呼んだ。
独立、自由。新しい世界。
「別の世界」から見れば、それは儲けるチャンスなのか、そんでお前らはうちの陣営につくのか、そういう話でもあった訳だが。
 
それはさておき突然出てくる謎の歌、隣の男が「第三の世界のただ中で」叫んでいるとき、この曲の語り手は「第三世界について」歌うことしかできなかった、そういう自省では。
 
ダン解散前の最後のアルバム"Gaucho"のラストトラック。
"Gaucho"の中心になるはずだった”Second Arrangement"のマスターが
事故で消去された結果、引っ張りだされたボツ曲の改作。
 
制作中に交通事故に遭い、また恋人をドラッグ禍で亡くしたベッカーは
ドラッグに溺れるようになり、スタジオ作業に集中できなくなった。
フェイゲンもライターズブロックに陥っていたようで、
それらがダン解散の引き金となった。
 
歌詞はフェイゲンのベッカーへの思いを歌っているようにも思える。
とあるインタビューでフェイゲンは、この時期のベッカーは終わりに向けて
突っ走っているように思えたが、それはベッカーの子供時代に原因があり、
どうすることもできなかった、
という趣旨の発言をしていた。
 
難産だった"Gaucho"は、それまでのアルバムの流れを断ち切るように、
唐突に哀切かつ元気のないムードに突入して終わるわけだが、
そんな中、すばらしいギターソロが一筋の光だと思う。