和歌・短歌
わが目より涙流れて居たりけり鶴のあたまは悲しきものを わがめより/なみだながれて/いたりけり/つるのあたまは/かなしきものを 斎藤茂吉 『赤光』所収歌。三句切。 歌意はそのまんま 「私の目から涙が流れてた。鶴の頭は悲しいものです」。 文意に分か…
スバルしずかに梢を渡りつつありと、はろばろと美し古典力学 永田和宏 『黄金分割』(1977)所収。 この歌の韻律。 すばるしずかに/こずえをわたり/つつありと/はろばろとはし/こてんりきがく 「美し」で「はし」と読めば、初句七・定型。 ただし岡井隆は…
柿本人麻呂は大歌人で歌聖だというけど、どこがすごいのか。 万葉集の第131番の歌を勉強してみる。 第二巻、相聞の部に入ってます。「相聞 そうもん」、 基本的にはラヴソングのことです。 詞書によれば「柿本朝臣人麻呂が、石見国(いわみのくに)に妻を置…
この記事はなんかしっくりせず、削除した。そしたら、ずっとgoogleの検索結果に残ってる。それでなんか片付かない心持ちがするので、もう一回書く。敬称略。 ☆ 朝の通勤電車で、岩波文庫『病牀六尺』を読んでた。正岡子規が、落合直文の歌を批評してた。 わ…
好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君 すきだった/あめ あめだった/あのころの/ひび あのころの/ひびだったきみ 桝野浩一 桝野浩一は、詩歌の伝統的な技術は意図的に切り捨てちゃって、ブンガクを知らない人にもどれだけ届くか…
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって/中澤系 さいきん『uta0001.txt―中澤系歌集』を買って、はじめてこの歌人の作品に接しました。非常に刺激的でした。 3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって/中澤系 さんばんせん/かいそ…
革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ かくめいか/さくしかに より/かかられて/すこしずつ えきか/してゆくぴあの 塚本邦雄 革命歌の作詞家がよりかかって、液状になるピアノ。 第一歌集『水葬物語』所収歌。 ●韻律 字数は四句8音…
ひら仮名は凄じきかなはははははははははははは母死んだ仙波龍英ひらがなは/すさまじきかな/ははははは/ははははははは/ははしんだ一睡もしてない状態で書いてるので、意味不明かもだが。「かな」のパロディ的な文語調を交えた口語歌。「すさまじ」現代…
家々に釘の芽しずみ神御衣のごとくひろがる桜花かな いえいえに/くぎのめしずみ/かむみその/ごとくひろがる/さくらばなかな 大滝和子 小説家の小林恭二主催の歌合(うたあわせ)の模様を収録した、『短歌パラダイス』(岩波新書)。その歌会で提出された…
大きなる手があらはれて昼深し上から卵をつかみけるかも 北原白秋 おおきなる/てがあらわれて/ひるふかし/うえからたまごを/つかみけるかも 第二歌集『雲母集』(きららしゅう、大正4年)の歌。 三句切れ。意味は、 大きな手が現れて、しんかんと真昼間…
雉子焙かれつつ昇天のはねひらく 神無き母に二まいのてのひら きじやかれ/つつ しょうてんの/はねひらく/かみなきははに/にまいのてのひら 塚本邦雄 第四歌集『水銀伝説』収録歌。 上句を見た瞬間、かっこいい、と思ったのですが、下句が難解で、ぶっち…
マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや寺山修司 富沢赤黄男の俳句、 一本のマッチをすれば湖は霧の本歌取り、というか、パクリ。新古今時代以来の本歌取り論に従えば、本歌取りは、既存の作品の独自表現は使わない。これは、富沢の作品…
前川佐美雄の第二歌集『大和』を買ったぜヒャッハーという話、書いた。さっき。 それで、「前川佐美雄」で何気なく検索してみたら、第一歌集『植物祭』所収の歌が中学校の教科書に載ってる?らしく、どう解釈するのか?という質問がヒットしました。 それで…
春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ 前川佐美雄 古書肆で、前川佐美雄(1903-1990)の第二歌集『大和』(昭和15年(1940),甲鳥書林)、ゲッツ。定価、一圓七十銭なり。缶コーヒーを一本買う値段で70冊くらい買えます。 違うか。10,000円く…
けふ桜しづくに我が身いざ濡れむ香ごめにさそふ風の来ぬまに きょうさくら/しずくにわがみ/いざぬれむ/かごめにさそう/かぜのこぬまに 河原左大臣(源融 みなもととおる,822-895) 二番目の勅撰集『後撰和歌集』巻2、春歌中の歌。 風にさそわれてさくら…
石川啄木は、学校の教科書では「生活派」とか書かれていて、何やら世間では、貧しい人たちに共感して、貧しい暮らしをしてる自分の魂を率直に歌い上げた、大歌人、みたいに思われてるふしがある。 その反動で、「実は性格最悪の借金魔だった」とか、なにが「…
しんぴんの/めざめ ふたりで/てにいれる/みー たーざん/ゆー じぇーん 穂村弘 口語短歌はあまり好きじゃないけれど、穂村弘はけっこう自然に読めた。 なぜかと思うに、一つには、詩としても「読める」こと。この歌は読解する必要ないけど。 それから、穂…
ぼうどうしおの/ごとくあたらし/ごうもうの/つぇっつぇばえすむ/くにのおとめに 塚本邦雄 理由は忘れたけど何年もまえ、図書館で『現代短歌体系』(三一書房)七巻を手にとった。小学生のころ、親父の蔵書の『全集 現代文学の発見』の『言語空間の探検』…
『塚本邦雄の青春』(楠見朋彦,ウェッジ文庫,2009)と並び、興味深い資料がまた一つ。 ご子息にして歴史小説家である塚本青史氏による塚本邦雄の評伝。 硬質な文体で塚本邦雄との生活を描いている。 読みどころは、全部。しかしあえて一つとなれば、やはりア…
しょうじょちぐさ/げんうんきざす/やくしゅてん/うすくらがりに/ひゃくのひきだし 塚本邦雄 塚本邦雄の歌には、あまり謎とか多義性といったものがない、と思う。 塚本の第一技法は名詞の衝突にあり、だから使われている名詞さえ正しく理解すれば、それが…
スティックがきらいでチューブ入りの糊を好むわけを教えようか 高瀬一誌 今いちばん好きな短歌の一つ。 短歌定型の感覚でいうと、 すてぃっくが/きらいでチューブ/いりののりを/このむわけを/おしえようか となる。 この歌の優れたところは、どこか。 昔…
「短歌往来」誌2015年1月号の「次代を担う歌人のうた」特集で眼にとまった歌の一つ。 個人的には80年代以降のほとんどの口語短歌は苦手で、意味の面でも韻律の面でも、関心の対象として浮き上がってこなかった。 この歌も、初めて誌面で見たときは、「真綿で…
白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 若山牧水 しらとりは/かなしからずや/そらのあお/うみのあおにも/そまずただよう たぶん一番有名な短歌の一つを、勉強をかねて読んでみるなり。 ●歌意 この歌はほとんど現代語なので、訳す必要が…
満月は熟れつつ 賜へわが領に鳥目繪の斑の吐噶喇列島 塚本邦雄 第八歌集『蒼鬱境』 まんげつは/うれつつ たまえ/わがりょうに/とりめえの ふの/とかられっとう 『蒼鬱境』は塚本邦雄の著作の中でも最大のレア本で、オリジナルは限定20部の肉筆私家版。稀…
塚本邦雄が『王朝百首』で採りあげていた歌。 惑はずなくららの花の暗き夜に我も靆(たなび)け燃えむ煙は まどわずな/くららのはなの/くらきよに/われもたなびけ/もえむけむりは 藤原顕綱の家集『讃岐入道集』に入ってる。 なんか佶屈で、意味のよくわ…