タパヌリ熱

"What do you know, pray, of Tapanuli fever?" said Sherlock Holmes. 音楽や本など、嘘や発見を書くブログ。旧ブログ http://ameblo.jp/baritsu/

波は神の手魚の流露いつの日も水晶の光濃き香の何か/塚本邦雄

波は神の手魚の流露いつの日も水晶の光濃き香の何か なみはかみのて/さかなのりゅうろ/いつのひも/すいしょうのひかり/こきかのなにか 塚本邦雄の晩年、大手術の後遺症で清澄な意識を失いつつあった日々に作られた歌だという。 塚本の歌としては異色の不…

荘子と老子 渾沌死せり。谷神も死せり

■荘子内篇の最後を飾る「渾沌」の寓話は、どういう意味なのか。 【読み下し】 南海の帝を儵(シュク)と為し、北海の帝を忽(コツ)と為す、中央の帝を渾沌(コントン)と為す。 儵と忽、時に渾沌の地に相い遇う。渾沌是を待つこと甚だ善し。儵と忽、渾沌の…

荘子と腰痛と漢文を読むこと

■ 10月、漢詩文にはまる。白文がすらすら読めるようになろう、とあさはかな夢を見たのである。なぜそれがあさはかなのかは、後で書く。 大量の漢籍と字書を仕事道具と一緒に鞄につめて通勤していた。字書は山本書店『支那文を読むための漢字字典』、世にいう…

ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事の中なるピアノ一臺/塚本邦雄

ほほゑみに肖てはるかなれ霜月の火事の中なるピアノ一臺ほほえみに/にて はるかなれ/しもつきの/かじのなかなる/ピアノいちだい塚本邦雄しばらく短歌を読むことなど忘れさっていたのだが、仕事に追われる日々の鬱屈の中に、ふとこの歌が頭に浮かんだ。こ…

蓮實重彦の三島賞会見と「心境」

YouTubeで蓮實重彦の三島賞会見を見た。文学者業界の人は殊更に「わざわざ賞をもらっておいて、茶番だ」とコメントしてたりするようです。 でもそういう見識ある文学者の人たちは、この映像に映しだされたすさまじいまでの現実を見て、今誰かがみっともない…

「リア充」がコンセプト Ash Ra Tempel "Starring Rosi"

聴いて、あまりの衝撃に記事を書かないではいられなかった Ash Ra Tempel アシュ・ラ・テンペル『Starring Rosi スターリング・ロジ』(1973)。 Starring Rosi アーティスト: Ash Ra Temple 出版社/メーカー: MG Art 発売日: 2011/08/15 メディア: CD この商…

ダークソウル3 地下牢のジークバルド、解呪石

●イルシールの地下牢のジークバルド救出 ジークさんイベントは、エレベーターと共闘イベントのみ見た状態で、このイベント発生した。 (井戸とか篝火には、いませんでした) しかし地下牢をいくら探しても、ジークの場所に行けないわけだが… 一言でいえば、…

石見の海 角の浦廻を/柿本人麻呂

柿本人麻呂は大歌人で歌聖だというけど、どこがすごいのか。 万葉集の第131番の歌を勉強してみる。 第二巻、相聞の部に入ってます。「相聞 そうもん」、 基本的にはラヴソングのことです。 詞書によれば「柿本朝臣人麻呂が、石見国(いわみのくに)に妻を置…

大辻隆弘『読みのアナーキズム』(『短歌』2015年7月号)

この記事はなんかしっくりせず、削除した。そしたら、ずっとgoogleの検索結果に残ってる。それでなんか片付かない心持ちがするので、もう一回書く。敬称略。 ☆ 朝の通勤電車で、岩波文庫『病牀六尺』を読んでた。正岡子規が、落合直文の歌を批評してた。 わ…

マックス・ウェーバー『職業としての学問』(尾高邦雄訳,岩波文庫)

子供のころから本棚にあったけど、さいきんはじめて読んでみた。 書名がめちゃくちゃ、つまらなそうだったから。ところが、すごくおもしろい本だった。これは10代、20代のうちに読んだ方がいい本。以下、基本的に引用は岩波文庫からですが、漢字の閉じ開きな…

好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君/桝野浩一

好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君 すきだった/あめ あめだった/あのころの/ひび あのころの/ひびだったきみ 桝野浩一 桝野浩一は、詩歌の伝統的な技術は意図的に切り捨てちゃって、ブンガクを知らない人にもどれだけ届くか…

3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって/中澤系

3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって/中澤系 さいきん『uta0001.txt―中澤系歌集』を買って、はじめてこの歌人の作品に接しました。非常に刺激的でした。 3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって/中澤系 さんばんせん/かいそ…

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ/塚本邦雄

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ かくめいか/さくしかに より/かかられて/すこしずつ えきか/してゆくぴあの 塚本邦雄 革命歌の作詞家がよりかかって、液状になるピアノ。 第一歌集『水葬物語』所収歌。 ●韻律 字数は四句8音…

ひら仮名は凄じきかなはははははははははははは母死んだ/仙波龍英

ひら仮名は凄じきかなはははははははははははは母死んだ仙波龍英ひらがなは/すさまじきかな/ははははは/ははははははは/ははしんだ一睡もしてない状態で書いてるので、意味不明かもだが。「かな」のパロディ的な文語調を交えた口語歌。「すさまじ」現代…

家々に釘の芽しずみ神御衣のごとくひろがる桜花かな/大滝和子

家々に釘の芽しずみ神御衣のごとくひろがる桜花かな いえいえに/くぎのめしずみ/かむみその/ごとくひろがる/さくらばなかな 大滝和子 小説家の小林恭二主催の歌合(うたあわせ)の模様を収録した、『短歌パラダイス』(岩波新書)。その歌会で提出された…

カフカの『変身』の「意味」

グレゴール・ザムザはある朝目がさめると、「毒虫」に変身していた。 ゲオルク・ベンデマンは、突然威厳を帯びてたちあがった父から「判決」をうけ、川に飛び込んだ。その瞬間、橋の上に無限の雑踏が始まった。 フランツ・カフカ(1883-1924)の『変身』の意…

大きなる手があらはれて昼深し上から卵をつかみけるかも/北原白秋

大きなる手があらはれて昼深し上から卵をつかみけるかも 北原白秋 おおきなる/てがあらわれて/ひるふかし/うえからたまごを/つかみけるかも 第二歌集『雲母集』(きららしゅう、大正4年)の歌。 三句切れ。意味は、 大きな手が現れて、しんかんと真昼間…

雉子焙かれつつ昇天のはねひらく 神無き母に二まいのてのひら/塚本邦雄

雉子焙かれつつ昇天のはねひらく 神無き母に二まいのてのひら きじやかれ/つつ しょうてんの/はねひらく/かみなきははに/にまいのてのひら 塚本邦雄 第四歌集『水銀伝説』収録歌。 上句を見た瞬間、かっこいい、と思ったのですが、下句が難解で、ぶっち…

ブラッドボーン、オルゴール少女イベントの真エンディング(?)

オルゴール少女サブイベントの真のエンディング(?)。 ヤーナム市街のオルゴール少女に、お母さんのブローチを渡した後の、アンチ・カタルシス的な展開。 苦労してイベントを進めた結果が、これです。 全てのプレイヤーが「……」と思ったでしょうが、現在の…

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや/寺山修司

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや寺山修司 富沢赤黄男の俳句、 一本のマッチをすれば湖は霧の本歌取り、というか、パクリ。新古今時代以来の本歌取り論に従えば、本歌取りは、既存の作品の独自表現は使わない。これは、富沢の作品…

ぞろぞろと鳥けだものを引きつれて秋晴れの街にあそび行きたし/前川佐美雄

前川佐美雄の第二歌集『大和』を買ったぜヒャッハーという話、書いた。さっき。 それで、「前川佐美雄」で何気なく検索してみたら、第一歌集『植物祭』所収の歌が中学校の教科書に載ってる?らしく、どう解釈するのか?という質問がヒットしました。 それで…

前川佐美雄『大和』

春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ 前川佐美雄 古書肆で、前川佐美雄(1903-1990)の第二歌集『大和』(昭和15年(1940),甲鳥書林)、ゲッツ。定価、一圓七十銭なり。缶コーヒーを一本買う値段で70冊くらい買えます。 違うか。10,000円く…

ブラッドボーンがクリアできない人への、役に立たない提言

PS4のブラッドボーン(FROMSOFTWARE,SCE)、明らかにソウルズシリーズ中、最もアクション難易度高いです。もはや、アクションゲームが苦手な、おっさんの反射神経では、クリア不可能なのではないかと思ったが、なんとかクリアできた。『幼年期のはじまり』エ…

中井英夫短歌論集

現代歌人文庫『中井英夫短歌論集』(福島泰樹編, 2001, 国文社)を読んで心に残った部分。 「塚本でも葛原でも、その後の中城ふみ子でも、編集者としてその登場に希ったのは、前衛派の臺頭(たいとう)だの反写実だのということではない。文学はもう少しダメ…

さくらの短歌と、歌よみに与ふる書

けふ桜しづくに我が身いざ濡れむ香ごめにさそふ風の来ぬまに きょうさくら/しずくにわがみ/いざぬれむ/かごめにさそう/かぜのこぬまに 河原左大臣(源融 みなもととおる,822-895) 二番目の勅撰集『後撰和歌集』巻2、春歌中の歌。 風にさそわれてさくら…

石川啄木『一握の砂』、カオス、貧しさ、身振り

石川啄木は、学校の教科書では「生活派」とか書かれていて、何やら世間では、貧しい人たちに共感して、貧しい暮らしをしてる自分の魂を率直に歌い上げた、大歌人、みたいに思われてるふしがある。 その反動で、「実は性格最悪の借金魔だった」とか、なにが「…

新品の目覚めふたりで手に入れる ミー ターザン ユー ジェーン/穂村弘

しんぴんの/めざめ ふたりで/てにいれる/みー たーざん/ゆー じぇーん 穂村弘 口語短歌はあまり好きじゃないけれど、穂村弘はけっこう自然に読めた。 なぜかと思うに、一つには、詩としても「読める」こと。この歌は読解する必要ないけど。 それから、穂…

暴動鹽のごとくあたらし剛毛のツェッツェ蠅棲む國の處女に/塚本邦雄

ぼうどうしおの/ごとくあたらし/ごうもうの/つぇっつぇばえすむ/くにのおとめに 塚本邦雄 理由は忘れたけど何年もまえ、図書館で『現代短歌体系』(三一書房)七巻を手にとった。小学生のころ、親父の蔵書の『全集 現代文学の発見』の『言語空間の探検』…

我が父塚本邦雄/塚本青史

『塚本邦雄の青春』(楠見朋彦,ウェッジ文庫,2009)と並び、興味深い資料がまた一つ。 ご子息にして歴史小説家である塚本青史氏による塚本邦雄の評伝。 硬質な文体で塚本邦雄との生活を描いている。 読みどころは、全部。しかしあえて一つとなれば、やはりア…

少女千草眩暈きざす藥種店うすくらがりに百のひきだし/塚本邦雄

しょうじょちぐさ/げんうんきざす/やくしゅてん/うすくらがりに/ひゃくのひきだし 塚本邦雄 塚本邦雄の歌には、あまり謎とか多義性といったものがない、と思う。 塚本の第一技法は名詞の衝突にあり、だから使われている名詞さえ正しく理解すれば、それが…